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東京地方裁判所 昭和31年(ワ)4895号 判決

原告 小暮松雄

被告 清水兵吾

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告訴訟代理人は被告が訴外共栄紙器株式会社に対する東京地方裁判所昭和二九年(ヨ)第二六二三号不動産仮処分命令により別紙目録記載の不動産に対してなした仮処分はこれを許さない。訴訟費用は被告の負担とする。との判決を求め、請求原因として被告は本件建物の敷地所有権を昭和二十八年五月二十八日原告より売買に因り取得したと称し所有権に基く建物収去土地明渡の請求権保全のため訴外共栄紙器株式会社に対する東京地方裁判所昭和二九年(ヨ)第二六二三号不動産仮処分命令により昭和二十九年三月三十一日被告の委任した東京地方裁判所執行吏をして別紙目録記載の建物(以下本件建物という)の所在地において、右建物に対する訴外会社の占有を解いて執行吏の保管に移す旨及び現状を変更しないことを条件として、訴外会社に本件建物の使用を許す旨の仮処分の執行をなさしめた。しかし本件建物は原告が昭和二十八年四、五月頃自己の費用によつて建築したもので原告の所有占有する建物である訴外会社は昭和二十八年八月四日設立された会社であつて本件建物を所有したことも占有したこともない。従つて訴外会社に対する仮処分命令に基いてなした前記仮処分の執行は失当であるから、その排除を求めるため本訴に及んだと述べ、立証として甲第一ないし第六号証を提出し、証人江口尚蔵、布施松雄の各証言及び原告本人尋問の結果を援用し、乙号各証の成立を認めた。

被告訴訟代理人は、原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする、との判決を求め、被告が原告主張の債務名義により原告主張の日に本件建物について仮処分執行をなさしめたこと、訴外会社が原告主張の日に設立された会社であることは認めるがその余の原告主張事実は否認する。被告は最初本件建物を原告の所有と考え、原告に対する仮処分命令を得、その執行をなさしめたところ、原告は執行吏に対し本件建物は訴外会社の所有占有するところであると述べたので、被告は更に訴外会社に対する仮処分申請をし、原告主張の仮処分命令を得たものであり、本件建物は訴外会社の所有占有するところであると述べ、立証として、乙第一ないし第三号証を提出し、被告本人尋問の結果を援用し、甲号各証の成立を認めた。

理由

一、被告が訴外共栄紙器株式会社に対する東京地方裁判所昭和二九年(ヨ)第二六二三号不動産仮処分命令により昭和二十九年三月三十一日被告の委任した東京地方裁判所執行吏をして本件建物の所在地において本件建物に対する訴外会社の占有を解いて執行吏の保管に移し、かつ現状を変更しないことを条件として訴外会社に本件建物の使用を許す旨の仮処分の執行をなさしめたことは当事者間に争いがない。

二、原告は本件建物は右執行当時原告の占有しかつ所有していたものであると主張するので、考えるに証人江口尚蔵、同布施松雄の各証言成立に争いのない乙第一号証甲第五号証によれば、右執行当時本件建物は訴外共栄紙器株式会社の直接占有していたところであり、その他に直接占有者のいなかつたことが認められ右認定に反する原告本人尋問の結果は信用できないから、原告が本件建物を直接占有していたとする原告の主張は理由がない。そこで原告が本件建物を所有しかつ、本件建物について間接占有を有する場合に、第三者異議の理由となるか、否かについて考えるに、前記乙第一号証、甲第五号証、及び被告本人尋問の結果によれば、被告はさきに、原告を債務者として本件建物について本件同様の占有移転禁止執行吏保管の仮処分命令の執行をしたところ、本件建物が原告の直接占有になく、訴訟会社の直接占有にあつたため執行不能となり、更に訴外会社を債務者とする本件仮処分命令を得て、本件執行に及んだことが認められるのであつて、本件仮処分の執行は債務者の本件建物に対する直接占有を解きこれを執行吏の保管に移すとともに債務者に現状変更しないことを条件として使用を許したに過ぎず、所有者がその意思に基いて右仮処分債務者に直接占有させている限り、その現状を固定させるだけで、これ以上に所有権を侵害し、又は所有権を侵害するおそれはないといわなければならない。そしてこのことは所有者の有する間接占有についても同様であるから所有者又は間接占有者は右仮処分執行に対して第三者として異議を主張することはできないといわなければならない。そして原告本人尋問の結果及び成立に争いのない甲第三号証によれば、訴外共栄紙器株式会社は原告が実質的支配権を有する会社であることが認められるから仮に本件建物が原告の所有であるとすれば、原告がその意思に基いて訴外会社をして本件建物を直接占有させていることが認められるから、原告の所有権又は間接占有権を理由とする主張も理由がなく、結局本訴請求は失当であつて、棄却すべきものである。

よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条を適用し主文のとおり判決する。

(裁判官 岡松行雄)

目録

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